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最高裁判所第一小法廷 昭和35年(オ)856号 判決 1964年1月30日

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人金原藤一、同原田昇の上告理由第一点、同二関敏の上告理由第一、二点、上告人両名の上告理由第一、二点、上告代理人築山重雄の上告理由第一、二点について。

原審は、上告人張と訴外鈴や相互金融株式会社間の根抵当権設定契約および代物弁済予約の目的物につき、上告代理人二関敏の上告理由第一点冒頭に摘記したとおり判示し、当初右契約の目的物として約定されたのは判示木造瓦葺二階建店舗兼居宅一棟建坪二八坪一合五勺二階一五坪であり、その後上告人張により右建物に加えられた築造部分は、「従前の担保の目的たる建物の壁に接続し瓦及び一部鋼板葺木造の二階建地下室付のものでその一階表側はくぐり戸を以て両者を通じ、柱を共通にしており屋階は従前の建物の屋根上に入込んでおり、更に屋根も約三尺五寸従前の建物に延してあり、地下室も亦従前の建物の敷地下に築造されている状態であつて右新しい築造部分は従前の建物と一体をなしその増築部分を形成するもの」と認定し、従前の建物に新しい築造部分を加えた現在の建物(第一審判決添付目録第一表示の建物)は従前の建物と前後を通じ同一性を失わないから、前示代物弁済予約の目的物となる旨判示したのであり、これに対し、論旨は、右認定判断に所論のような違法があると主張する。

よつて、(一)まず、従前の建物と新らたな築造部分の接合状態に関し、原審が従前の建物と築造部分とが柱を共通にしているとした認定の当否につき検討するに、原判決挙示の証拠中右認定に関連するものは第一審の検証の結果のみであると認められるところ、右検証調書には「区分する境壁は概ね両部分共通の柱によつて構成されており、右両部分を区別すべきそれぞれの外壁に相当するものは認められなかつた」とあり、一応前示認定に照応する資料となしうるようにみえるが、右調書の記載の後には、「二階部分の境壁には一階部分に於ける如く」両部分を「連絡する通行口が設けられていない為、境壁の柱の相互関係を検することができなかつた」旨明記されているから、先の記載は、従前の建物と築造部分の一階を連絡する通行口において、当該箇所付近の柱の共通関係を検分した結果を現わしているにすぎないものであることが窺われるのである。されば、原審が、右検証の結果によつて、従前の建物と築造部分とが相隣接する箇所の全部に亘つて柱を共通にしていると認定したことは、証拠の意義、内容を不当に拡張して、これを事実認定の資料に供した違法があるといわなければならず、しかも、従前の建物と築造部分の接合状態に関するその余の原審認定事実(前掲参照)のみをもつてしては、いまだ、従前の建物と新らたな築造部分との一体性を肯認することはできないから、前示違法は判決に影響を及ぼすこと明らかであるといわなければならない。のみならず(二)一般に、建物に加えられた築造が従前の建物と一体となつて全体として一個の建物を構成するか、あるいは、築造部分が従前の建物とは別個独立の建物となるかは、単に建物の物理的構造のみからこれを決すべきではなく、取引または利用の対象として観察した建物の状況もまた勘案しなければならない。本件において、上告人張と訴外会社間の根抵当権設定契約および代物弁済予約の目的物として約定された前示従前の建物に加えられた築造部分についても、その従前の建物との一体性の有無を判断するには、建物の物理的構造の点のみならず、従前の建物と右築造部分のそれぞれの種類・構造・面積、造作、周辺の建物との接著の程度、四辺の状況等の客観的事情ならびに現在建物が一個の建物として登録・登記されるにいたつた所有者側の事情を総合し、もつて、右築造部分が従前の建物から独立して取引または利用されうるか否かの点をも勘案すべきものである。しかるに、原審が、前掲のごとく、もつぱら従前の建物と築造部分との接合状態如何の認定に終始し、取引または利用上の観点から叙上の諸事情を審究判示することなく、直ちに、両部分の一体性を肯認し、代物弁済予約の効力が築造部分についても当然に及ぶものと判断したことは、建物の個数ないし同一性の判定に関する法則を誤り、審理不尽、理由不備の違法に陥つたものと考えざるをえない。

したがつて、論旨は、爾余の点に関し論及するまでもなく、理由があり、原判決は破棄を免れない。

よつて、その余の論旨に対する判断を省略し、民訴四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 斉藤朔郎 裁判官 長部謹吾)

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